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「老化のスピードは人によって違う」は、どこまで測れたのか ─ 双子335人を8年追った分子データ【2026】

WSN. 私たちは、死なない。 編集部·公開: 2026年9月5日·最終更新: 2026年9月5日

最終更新: 2026年9月 / 監修: WSN. 私たちは、死なない。 編集部

メイ
メイ「生物学的年齢」とか「老化速度」ってよく聞きます。人によって老けるスピードが違うのは、本当に測れているんですか?
トキ
トキまさにそれを、同じ人を8年間くり返し測って調べた研究が出ました。結論は、老化の分子的な"道筋"は人によってかなり違い、万人共通のものは見つからなかった。同い年の健康な2人でも、変化の向きが逆になることすらあったんです。これは、老化時計の値がなぜ人でばらつくのかを、分子の動きそのもので裏づける話です。
デバ
デバふぉっふぉ。「人それぞれ」がデータで見えたのは面白い。だが「だから測れば一人ひとりに最適な手が打てる」は、まだ別の話じゃ。対象も主に女性の双子335人じゃ。わかったことと、まだ言えんことを分けるのじゃぞ。
老化のスピードは人によって違うはどこまで測れたのか。2026年9月、キングス・カレッジ・ロンドンのチームがScienceに、双子コホートTwinsUKの335人を最長8年にわたり繰り返し採血し、約16000遺伝子のRNAと数百種の代謝物を追った縦断多層オミクス研究を発表した。5061の遺伝子と181の代謝物が時間とともに変化し、その多くが集団平均の傾向から外れ、個人ごとに向きが分かれ、時に正反対だった。心臓の老化に関連するCXCL9の軌跡が個人で分岐し、がん抑制遺伝子TP53が一部の人で加齢とともに低下してがんリスクに影響しうる。免疫は自然免疫と獲得免疫で変化の仕方が異なり一様ではない。永遠の化学物質PFASの血中濃度の推移と分子プロファイルの変化に相関が見られ、遺伝子と環境の相互作用が示された。ただし観察研究で因果ではなく、対象は主に女性の双子335人。個人差が大きいことはわかったが、個人の軌跡から病気を予測して個別に介入できるかは未検証。血液のみの測定。
図:この記事の全体像 青=何を調べたか/緑=わかったこと(老化の分子的道筋は個人差が大きく、万人共通はない)/赤=線引き(観察・335人・主に女性・血液のみ/"測れば個別最適"はまだ)。

1. まず整理 ─ 何を調べた研究か

まず内容を確認します。2026年9月、Scienceに、キングス・カレッジ・ロンドンのチームが、老化の分子的な変化を同じ人を追いかけて調べた研究を発表しました1。

デザインが、この分野では新しいところです。老化のオミクス研究(遺伝子や代謝物を網羅的に測る研究)の多くは、別々の年齢の人を一度に比べる「横断研究」でした。それだと「集団としての平均の傾向」はわかっても、「一人ひとりがどう変わっていくか」は追えません。今回は、双子コホートTwinsUKの335人を、最長8年にわたり3回以上くり返し採血し、血液中の約16,000遺伝子のRNA(遺伝子の働き)と数百種類の代謝物を測る、縦断(追跡)の多層オミクス研究でした1。

2. わかったこと ─ 万人共通の「老化の道筋」はなかった

結果は、直感をやさしく裏切るものでした。8年のあいだに、5,061の遺伝子と181の代謝物が変化しました。ところが、その多くが集団平均の傾向から外れ、個人ごとに変化の向きや速さが分かれたのです。著者いわく、同い年の健康な2人でも、分子レベルでは驚くほど違う老け方をしており、変化の向きが正反対になることすらありました1。

具体例も挙がっています。心臓の老化に関連する遺伝子CXCL9は、その変化の道筋が個人によって分かれました。がんを抑える遺伝子TP53は、一部の人で加齢とともに働きが下がり、がんのリスクに影響しうると考えられます。免疫も一様ではありませんでした。生まれつき備わる素早い守り(自然免疫)と、時間をかけて記憶を作る守り(獲得免疫)とで、分子の変化の仕方が違っていたのです1。

さらに、環境の影響も見えました。ここで出てくるPFAS(ピーファス)に注目します。これは、水や油をはじくために、こびりつかない調理器具・撥水加工の衣類・食品包装などに広く使われてきた人工の化学物質で、自然のなかでも体内でもほとんど分解されず長く残るため「永遠の化学物質」とも呼ばれます。研究では、血中のPFAS濃度が増減していく推移と、その人の分子プロファイル(遺伝子や代謝物のパターン)の変化とが、連動していた(相関していた)と報告されました。これは、老化の分子的な道筋が、遺伝子だけでなく体にたまる環境物質のような外的要因とも結びついていること——つまり遺伝子と環境の相互作用で形づくられることを示します。裏を返せば、環境中のPFASを減らすといった公衆衛生の取り組みが、分子のレベルにまで届きうる、ということです。ただしこれは相関であって、「PFASが老化を進める」という因果を示したわけではありません1。

メイ
メイ「人それぞれ」なら、じゃあ私の分子を測れば、私だけの最適な老化対策がわかるってことですか?
トキ
トキそこはまだ「可能性」の段階です。この研究がしっかり示したのは、「老化の道筋には大きな個人差がある」という事実まで。「だから測れば個別に最適な介入がわかる」のほうは、これから確かめること(=著者らが言う"将来の精密医療の可能性")です。事実と、期待は分けましょう。むしろこの研究は、WSNがよく言う「あなたの生物学的年齢は◯歳」という一つの数字を、うのみにしないための後ろ盾になります。

3. ここが線引き ─ 「個人差がある」と「測れば個別最適がわかる」は別

前向きな結果ほど、線引きをはっきりさせておきます。少なくとも3つの留保があります。

ひとつめは、観察研究だということです。分子の変化と、遺伝子や環境(PFASなど)との関連(相関)は見えましたが、「その分子変化が病気を引き起こす」という因果を証明したわけではありません1。

ふたつめは、対象の偏りです。TwinsUKは主に女性の双子のコホートで、今回の対象は335人です。双子は遺伝と環境の影響を分けやすい貴重な集団ですが、男性やほかの集団でも同じ絵になるかは、この研究からは言えません1。

みっつめは、いちばん実生活に関わる点です。「個人差が大きい」ことがわかったのと、「あなたの分子の軌跡を測れば、あなただけの最適な介入がわかる」のは、別の話です。後者は著者らも「将来の可能性」として述べているにとどまり、まだ実証されていません。しかも測ったのは血液であり、体のすべての組織を代表するわけでもありません1。

4. わたしたちにとって何を意味するか

いちばんの意味は、「老化時計の値が、なぜ人によってばらつくのか」の"上流の説明"が得られたことです。WSNはこれまで、エピゲノム時計の不一致や、「生物学的年齢」検査が科学かマーケティングかを扱ってきました。今回の研究は、時計がばらつくのは測定の粗さだけでなく、そもそも人ごとに分子の道筋が本当に違うからだ、という土台を与えてくれます。

だからこそ、実用の受け止めは落ち着いたものになります。「あなたの生物学的年齢は◯歳」「老化速度は平均の1.2倍」といった、一つの数字での断定的な宣伝は、割り引いて見るのが賢明です。人の老化は一本道ではなく、遺伝と環境で形が変わる、動的なものだからです。同時に、PFASのような環境要因が分子に跡を残すという知見は、個人の努力だけでなく、環境をよくする公衆衛生の取り組みにも意味があることを示します。派手な「あなただけの若返りプラン」に飛びつくより、個人差が大きいという事実を踏まえたうえで、確からしい土台(食事・運動・睡眠、そして環境リスクを減らすこと)を続ける——それが、この研究がくれる、地に足のついた姿勢です。

まとめ ─ 30秒でおさらい

  • 2026年9月、双子コホートTwinsUKの335人を最長8年追跡し、血液の約16,000遺伝子と数百の代謝物を測った縦断研究がScienceに出ました1。
  • 8年で5,061遺伝子・181代謝物が変化しましたが、個人ごとに向きや速さが分かれ、時に正反対で、万人共通の「老化の道筋」は見つかりませんでした1。
  • 心臓老化のCXCL9やがん抑制のTP53の軌跡が個人で分岐し、免疫も自然免疫と獲得免疫で変化が異なり、PFAS(分解されにくく体にたまる人工の化学物質で「永遠の化学物質」とも呼ばれます)の血中推移とも相関しました(相関であり因果ではありません)1。
  • ただし①観察研究で因果ではない、②対象は主に女性の双子335人、③測ったのは血液のみ、という限界があります1。
  • 「個人差が大きい」はわかったが、「測れば個別に最適な介入がわかる」はまだ言えません。「◯歳若い」という一つの数字の断定は割り引き、土台(食事・運動・睡眠・環境)を続けるのが賢明です1。

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参考文献(主要なものを抜粋)

1. El-Sayed Moustafa J, ..., Small K. Longitudinal dynamics of gene expression and metabolomics in an ageing population cohort. Science, 2026. DOI: 10.1126/science.aed6452.(キングス・カレッジ・ロンドンによる、双子コホートTwinsUK〔MultiMuTHER研究〕の335人を最長8年・3時点以上で追跡した縦断多層オミクス研究です。全血の遺伝子発現〔約16,000遺伝子〕と数百種の代謝物を反復測定し、5,061遺伝子・181代謝物が経時変化する一方、個人ごとの軌跡が集団平均から大きく外れ、時に正反対になることを示しました。心臓老化関連のCXCL9の軌跡が個人で分岐、がん抑制遺伝子TP53が一部で加齢とともに低下、免疫は自然免疫系と獲得免疫系で変化が相違、PFAS血中濃度の推移と分子プロファイルの変化に相関を報告しました。著者らは「万人共通の分子的ロードマップは存在せず、人は異なる生物学的な道筋をたどる」とし、将来の精密医療の可能性を示唆しています。観察研究であり因果は示さず、対象は主に女性の双子で、測定は血液に限られます。)

2. 背景:TwinsUKは英国の双子コホートで、参加者は主に女性である。双子研究は遺伝と環境の寄与を分離しやすい利点がある一方、性別・集団の偏りにより一般化には注意を要する。縦断研究は同一個人の経時変化を捉えられる点で横断研究より強力だが、関連の観察であって因果の証明ではない(疫学・老化研究の一般的知見)。

3. 背景:生物学的年齢や老化速度を推定するエピゲノム時計・オミクス指標は、同一人物でも指標間で値が食い違う(不一致)ことが知られている。本研究は、その背景に「個人ごとに分子変化の軌跡が実際に異なる」ことがあると示す位置づけになる。ただし、個人の軌跡から疾患を予測し個別に介入するという臨床応用は、今後の検証課題である(老化生物学・精密医療の一般的知見です。関連:本サイトのエピゲノム時計関連記事)。


編集方針・免責事項

  • 本記事は公開された査読論文の整理であり、特定の検査・介入・製品を推奨または否定するものではありません。
  • 本記事で扱う結果は観察研究にもとづくもので、分子変化と疾患の因果関係を証明するものではありません。対象は主に女性の双子335人で、測定は血液に限られ、男性やほかの集団への一般化には別途の検証が必要です。「個人差が大きい」ことと「個人の軌跡を測れば最適な介入がわかる」ことは異なり、後者は今後の検証課題です。
  • 「生物学的年齢」等の測定・検査の解釈や、健康上の判断は、専門家にご相談ください。本記事は診断・治療の助言ではありません。
  • 情報は最終更新時点のものです。最新情報は原著をご確認ください。

この記事は WSN. 私たちは、死なない。 編集部により2026年9月に作成・公開されました。新しい情報が出れば随時更新します。

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老化速度生物学的年齢マルチオミクス個人差検証

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