XPRIZE Healthspan、ファイナリスト20チーム発表 ─ 日本から2チームが100万ドルを受賞
最終更新: 2026年8月 / 監修: WSN. 私たちは、死なない。 編集部



1. 何が起きたのか ─ ファイナリスト20、うち10チームが100万ドル
まず事実を確認します。XPRIZE Healthspanは、総額1億ドル超をかけた、健康寿命をめぐる世界的なコンペティションです。目標は野心的で、1年以内の介入で、50〜90歳の筋肉・認知・免疫といった機能を、最低10年分(目標は20年分)若返らせられるかを競います。段階的にチームを絞り込み、賞金(マイルストーン賞)を出しながら進めてきました1。
2026年8月11日、ソルトレイクシティの授賞式で、ファイナリスト20チームが発表されました。そのうち**10チームが第2マイルストーン賞に選ばれ、各100万ドル(合計1,000万ドル)**と、臨床試験のための支援を受けます。受賞10チームは、米国・日本・韓国・中国の4カ国にまたがりました。内訳は米国が6チーム、日本が2チーム、韓国が1チーム、中国(マカオ)が1チームです1。
受賞した10チーム(第2マイルストーン賞)は、次のとおりです1。
- AgelessRx(米国)
- Goda Lab(東京大学 / NanoTitan / 東京リライフクリニックら、日本)
- Johns Hopkins-Suninflam(Suninflam & ジョンズ・ホプキンス大学、米国)
- Longeveron(米国)
- Minicircle(米国)
- Mitochondrial All Stars(Mighty Therapeutics / ワシントン大学、米国)
- NYC-Vita(マウントサイナイ、米国)
- RETRO-EPIGERNA(マカオ科技大学、中国)
- RPRGAON-Progeria(PRG S&Tech、韓国)
- TIME TRAVELER – Plant-EVs(日本)
ファイナリストは、いよいよ本番へ進みます。2026〜2029年にかけて、50〜90歳を対象にした最長1年間の臨床試験を行い、筋肉・認知・免疫の機能を取り戻せるかを検証します。試験のデータ管理はユタ大学のデータ調整センター、共有ラボや生体指標(バイオマーカー)の取りまとめはカリフォルニア大学サンディエゴ校が担います。優勝賞金は2030年に最大8,100万ドルが授与される計画です1。
なお、20チームのうち受賞しなかった残り10チームの顔ぶれは、今回の公式発表では個別に列挙されていません。過去の段階で名前が挙がった日本のほかのチームが残り10に含まれるかは、今後の公表で確認する必要があります1。
2. ここが線引き ─ ファイナル進出は「資格」であって「証明」ではない
いちばん大切な点は、ファイナル進出=効果の証明ではないことです。トップ20やマイルストーン賞に選ばれたのは、これから1年間の臨床試験に進む資格を得たという段階です。その介入が本当に人の機能を若返らせるかは、これからの試験で確かめられるのであって、いま決まったわけではありません1。
審査は、科学的な根拠の強さ、方法の広めやすさ・受けやすさ(スケーラビリティとアクセス性)、そして臨床試験にすぐ進める準備ができているか、を基準に行われました。これは「面白いアイデアか」ではなく「試験に載せられるか」を見るものであって、「効くと証明されたか」とは違います。賞金レースは、有望なアイデアに資金と注目を集めて開発を加速する良い仕組みですが、レースで上位に入ったことと、その方法が科学的に効くと示されたことは、別の物差しで測るべきです。派手な発表に「もう効くらしい」と飛びつくのではなく、最終試験の結果が出るまで判断を保留するのが、賢い読み方です。
3. 日本の受賞2チーム ─ どちらも「細胞外小胞」を軸に
今回、日本からは2チームが100万ドルを受賞しました。興味深いことに、どちらも「細胞外小胞(さいぼうがいしょうほう)」——細胞が出す、分子を運ぶ小さな膜の袋。エクソソームとも呼ばれ、体の中で細胞どうしが情報や物質をやりとりする"配達便"のような役割を持つ——を軸にしています。
**Goda Lab(東京大学ら)は、東京大学の合田圭介研究室を中心に、ナノ技術の企業(NanoTitan)や医療機関(東京リライフクリニック)などが組んだチームです。細胞外小胞の表面を作り込む「表面工学」**で、狙った細胞へ効率よく届ける技術を開発してきました。希土類(レアアース)のユウロピウムイオンを使う独自の手法で、細胞外小胞の届く効率を大きく高め、細胞を若い状態に近づけることをねらう、と報告されています。ただし、こうした効率向上の数値は主に研究段階・自チームの報告にもとづくもので、人での効果はこれからの試験で確かめられます2。
TIME TRAVELER – Plant-EVsは、その名のとおり植物由来の細胞外小胞を治療に使おうとするチームです。動物の細胞ではなく植物からとれるため、大量に・安く作れる可能性があり、XPRIZEが重視する「広く手が届く(アクセス性の高い)介入」という方向性に沿っています。細胞外小胞の品質と効き目を評価する研究の蓄積を土台にしている、とされます。こちらも、人での有効性・安全性はこれからの臨床試験で検証される段階です2。


4. ほかの有望なアプローチ ─ 幹細胞・遺伝子・ミトコンドリア
受賞10チームは、老化の生物学に対してさまざまな角度から挑んでいます。XPRIZEは大きく4つの方向にまとめています。(1) 代謝・炎症・神経保護・細胞修復をねらう新しい医薬・生物学的製剤、(2) 幹細胞や遺伝子を使う再生的アプローチ、(3) 細胞外小胞などの次世代の"運び手"技術、(4) AIを活かして既存薬・栄養・生活習慣を個人に合わせる精密ケア、です1。代表例をいくつか挙げます。
再生・遺伝子系では、Longeveron(米国)が、若く健康なドナーの骨髄からとった間葉系幹細胞(さまざまな組織の修復を助ける細胞)を使う細胞治療 Lomecel-B(ラロメストロセル)を開発しています。抗炎症や組織修復の働きが期待され、すでにアルツハイマー病などで臨床開発が進んでいます3。Minicircle(米国)は、環状のDNA(プラスミド)で細胞に一時的な遺伝子の指示を届け、筋肉の成長にかかわるタンパク質(フォリスタチン)を作らせる遺伝子治療を掲げています。ただし同社が示す「若返り」の主張には自社報告にもとづくものが多く、独立した検証は限られます。期待とともに、慎重に見るべき対象です4。
このほか、Mitochondrial All Stars(米国)は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアを立て直す"修理パッチ"のような新薬を、**RPRGAON-Progeria(韓国)**は、早老症にかかわる有害なタンパク質を狙って壊す「探して壊す」型の医薬を掲げます。AgelessRx(米国)は、遠隔医療とデータ・AIで、既存薬や栄養・運動を一人ひとりに合わせて最適化する、受けやすさを重視したアプローチです1。いずれも方向性は多彩ですが、共通するのは「対照を置いた臨床試験で効果を確かめる」段階へ、これから進むという点です。
5. わたしたちにとって何を意味するか
この大会は、**「健康寿命を延ばす介入を、きちんとした臨床試験で確かめる」**という流れを、世界規模で後押ししています。老化への介入が、逸話や宣伝ではなく、対照を置いた試験で評価される方向に進むこと自体は、WSNが大切にする姿勢と重なります。日本の2チームが世界の決勝に選ばれたことも、素直に前進として受け止めたいところです。
いっぽうで、読者としての向き合い方はシンプルです。「賞金を取った」「決勝に残った」というニュースを、「効果が証明された」と読み替えないこと。ファイナリストの介入は、いまサプリや自由診療で受けられるものではありませんし、細胞外小胞や幹細胞をうたう自由診療とも中身は別物です。効果はまだ未確定で、最終試験の結果を待つ必要があります。この一点を守れば、賞金レースの盛り上がりと、落ち着いてつきあえます。
まとめ ─ 30秒でおさらい
- 2026年8月11日、健康寿命コンペ XPRIZE Healthspan がファイナリスト20チームを発表し、うち10チームが各100万ドル(合計1,000万ドル)を受賞しました1。
- 受賞10チームは米国6・日本2・韓国1・中国(マカオ)1の4カ国。日本は Goda Lab(東京大学ら) と TIME TRAVELER – Plant-EVs で、どちらも細胞外小胞を軸にしています12。
- ファイナリストは2026〜2029年に、50〜90歳を対象にした最長1年の臨床試験へ進みます。優勝賞金は2030年に最大8,100万ドルです1。
- ほかにも幹細胞(Longeveron)、遺伝子治療(Minicircle)、ミトコンドリア修復など多彩な手法が並びます。ただしファイナル進出は「効果の証明」ではありません134。
- 「賞金を取った」を「効いた」と読み替えない。最終試験の結果を待つのが、賢い受け止め方です。
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参考文献(主要なものを抜粋)
1. XPRIZE Foundation. 10 Finalist Teams Awarded $1M to Advance in XPRIZE Healthspan $101 Million Race to Transform Healthy Aging / 20 Healthspan Finalist Teams Advance in the Race to Extend Healthy Aging(公式発表). 2026年8月11日, ソルトレイクシティ.(総額1億ドル超の健康寿命コンペで、ファイナリスト20チームを発表し、うち10チームを第2マイルストーン賞〔各100万ドル・合計1000万ドル〕として選出。受賞10チームは米国・日本・韓国・中国の4カ国。ファイナリストは2026〜2029年に50〜90歳対象の最長1年の臨床試験を実施し、機能を最低10年〔目標20年〕若返らせられるかを検証。データ管理はユタ大学、共有ラボ・バイオマーカーはUCSDが担当。優勝賞金は2030年に最大8100万ドル。日本の受賞2チームはGoda Lab〔東京大学 / NanoTitan / 東京リライフクリニックら〕とTIME TRAVELER – Plant-EVs。)
2. 日本チーム関連の公表・報道. 東京大学(合田圭介研究室ほか)、東北大学、順天堂大学、大阪大学などの公表資料・報道. 2025〜2026年.(日本チームの参加段階と手法の整理。Goda Labは細胞外小胞〔エクソソーム〕の表面工学で送達効率を高める技術、TIME TRAVELERは植物由来の細胞外小胞を用いる方針と報じられている。効率向上などの数値は主に研究段階・自チームの報告にもとづき、人での有効性は今後の臨床試験で検証される。)
3. Longeveron 公表資料. Lomecel-B(laromestrocel、同種間葉系幹細胞療法)に関する開発情報. 2025年.(若く健康なドナー骨髄由来の間葉系幹細胞を用いる細胞治療で、抗炎症・組織修復などの作用が期待され、アルツハイマー病などで臨床開発中と公表。XPRIZE Healthspanの準決勝・ファイナリストに選出。)
4. Minicircle 公表情報. フォリスタチン遺伝子治療(プラスミドによる一時的遺伝子発現)に関する自社公表. 2024〜2026年.(環状DNAで一時的にフォリスタチンを発現させる遺伝子治療を掲げる。「エピジェネティック年齢の低下」などの主張は主に自社報告にもとづき、独立した検証は限られる点に留意。)
5. 背景:XPRIZE Healthspanは2023年開始の7年・総額1億ドル超のインセンティブ型コンペで、老化の生物学そのものを標的に、機能を回復させる介入の開発と臨床試験を加速することを目的とする(大会設計に関する一般的な公表情報)。
編集方針・免責事項
- 本記事は大会の公式発表および各チームの公表・報道の整理であり、特定のチーム・介入・製品を推奨・否定するものではありません。
- ファイナリストへの選出やマイルストーン賞の受賞は、臨床試験に進む段階を意味し、介入の有効性・安全性が証明されたことを意味しません。結果は今後の試験で評価されます。
- 各チームの手法・数値には研究段階や自チーム報告にもとづくものが含まれ、独立した検証が限られる場合があります。詳細は公式発表および一次資料でご確認ください。
- 情報は最終更新時点のものです。新しい情報が出れば随時更新します。
この記事は WSN. 私たちは、死なない。 編集部により2026年8月に作成・公開されました。新しい情報が出れば随時更新します。
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