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「スーパーエイジャー」は“良い遺伝子”で説明できるのか ─ 90代で記憶力を保つ人のDNAを調べたら、差がなかった

WSN. 私たちは、死なない。 編集部·公開: 2026年8月11日·最終更新: 2026年8月11日

最終更新: 2026年8月 / 監修: WSN. 私たちは、死なない。 編集部

メイ
メイ90代でも記憶力がしっかりしている人って、きっと"良い遺伝子"を持っているんですよね?
トキ
トキそう思いますよね。ところが今回の研究は逆でした。記憶力を保つスーパーエイジャー142人と、同年代で平均的な89人を比べても、アルツハイマー病のリスク遺伝子(APOE型やリスクスコア)に差はなかったんです。つまり「リスクが低いから元気」では説明できませんでした。
デバ
デバふぉっふぉ。「病気になりにくい遺伝子」と「歳をとっても衰えにくい力」は別物じゃ。今回はそこがくっきり分かれた。何が守っているのかは、まだ宿題として残っておる。
スーパーエイジャーの遺伝子。シカゴ大学のHAARCセンターとTGenのグループが、80〜90代で50〜60代並みの記憶力を保つスーパーエイジャー142人と、同年代で認知機能が平均的な89人のDNAを比較した。アルツハイマー病リスクと最も強く関連するAPOE遺伝子でも、多数の変異を合算したポリジェニックリスクスコアでも、両群に意味のある差は見つからなかった。防御に関わるとされてきた稀な変異でも差はなかった。芯は、優れた認知老化は既知のリスク遺伝子では説明できず、リスクスコアは病気の予測用で優れた老化の予測には向かないという線引き。何が守っているのかはこれから、抵抗力(レジリエンス)のしくみを探す段階。
図:この記事の全体像 "良い遺伝子"では説明できなかった。青=調べたこと/緑=わかったこと/赤=ここに注意(道具の限界)。

1. 何を調べたのか ─ 「衰えない高齢者」のDNA

まず、スーパーエイジャーという言葉を確認します。これは、80代・90代になっても、50〜60代並みの記憶力を保っている高齢者を指す呼び名です。ふつう、記憶力は年齢とともに少しずつ落ちますが、この人たちはその衰えがほとんど見られません。

シカゴ大学のHAARC(高齢者健康・老化研究センター)と、TGen(City of Hope の研究機関)のグループは、このスーパーエイジャー142人と、同じ年代で記憶力が平均的な89人を集め、両者のDNAを比較しました。狙いはシンプルで、「衰えない人は、どんな遺伝子を持っているのか」を確かめることです12

とくに注目したのが、アルツハイマー病のなりやすさに関わる遺伝子でした。認知の老化と、アルツハイマー病は深くつながっているため、「病気になりにくい遺伝子を持っているから、記憶も保てるのだろう」という予想が立てられます。それを検証したのです1

2. わかったこと ─ リスク遺伝子に「差がなかった」

結果は、予想を裏切るものでした。両群のあいだに、意味のある遺伝子の差は見つからなかったのです。

具体的には、次の3つのどれでも差がありませんでした。第一に、アルツハイマー病リスクと最も強く関連する APOE 遺伝子の型。第二に、多数の遺伝子のわずかな効果を合算したポリジェニックリスクスコア(病気のなりやすさを1つの数字にまとめた指標)。第三に、防御に働くとされてきた稀な変異。いずれも、スーパーエイジャーと平均的な人を区別できませんでした1

つまり、スーパーエイジャーは「アルツハイマー病になりにくい遺伝子を持っているから、記憶が保たれている」わけではなかったのです。彼らを守っているのは、既知のリスク遺伝子とは別の何かだ、という手がかりが得られました1

3. なぜ大事なのか ─ 「リスクが低い」と「守る力がある」は別

この結果は、遺伝子の読み方について重要なことを教えてくれます。「病気になりにくいこと」と「歳をとっても優れていること」は、同じではないのです。

ポリジェニックリスクスコアのような道具は、「集団の中で、病気に平均よりなりやすいか・なりにくいか」を、ある程度は示せます。しかし今回の結果は、その同じ道具が、「例外的にうまく歳をとる人」を言い当てる力は乏しいことを示しました。リスクスコアは、病気の予測のために作られた道具であって、優れた老化を予測するために作られたものではないのです13

メイ
メイじゃあ、遺伝子検査で"リスクが低い"と出ても、それだけで安心はできないんですね…。
トキ
トキそのとおりです。逆に"リスクが高め"でも、それが運命というわけでもありません。今回のスーパーエイジャーのように、リスク遺伝子の型だけでは説明できない"守る力"を持つ人がいる——それが、遺伝子の数字を絶対視しないほうがよい理由です。

4. では、何が守っているのか ─ ここからが本番

「リスク遺伝子で説明できない」なら、スーパーエイジャーを支えているのは何でしょうか。研究者たちが次に探すのは、抵抗力(レジリエンス)のしくみです。たとえば、脳が傷を受けても機能を保つ予備力、炎症や老化細胞への対応、免疫のはたらき、生活習慣や環境——こうした、DNAの型だけでは捉えきれない要素が候補になります。今後は、バイオマーカー(体の状態を映す指標)、免疫の状態、脳画像、生活習慣などを組み合わせて、その正体を探っていくことになります1

この研究には限界もあります。142人対89人という規模はそう大きくなく、スーパーエイジャーの定義が記憶課題の成績に依存している点、そしてある一時点で比べた横断研究である点は、割り引いて読む必要があります。それでも、「良い遺伝子を持っているから衰えない」という単純な物語に、はっきり待ったをかけた意義は大きいといえます1

5. わたしたちにとって何を意味するか

いま持ち帰れることは、二つあります。ひとつは、消費者向けの遺伝子検査で「あなたは長寿・健脳の遺伝子を持っています」と言われても、うのみにしないことです。リスクスコアは病気のなりやすさの参考にはなっても、あなたが例外的にうまく歳をとれるかどうかは、そこからは分かりません。

もうひとつは、より前向きな見方です。優れた老化が「生まれつきの遺伝子」だけで決まっていないのなら、後から関われる余地があるかもしれない、ということです。もちろん、その"守る力"の正体はまだ分かっていません。だからこそ、派手な遺伝子検査の結果よりも、そのしくみが解き明かされるのを待つほうが確かです。WSNがこの研究に注目するのは、「遺伝子で全部わかる」という誤解に、正直な線を引いてくれるからです。

まとめ ─ 30秒でおさらい

  • シカゴ大 HAARC と TGen のグループが、記憶力を保つスーパーエイジャー142人と、同年代で平均的な89人のDNAを比較しました1
  • アルツハイマー病リスクと関わるAPOE型でも、ポリジェニックリスクスコアでも、稀な防御変異でも、両群に差は出ませんでした1
  • つまり、スーパーエイジャーは「リスク遺伝子が低いから元気」では説明できず、**別の"守る力"**に支えられているようです1
  • リスクスコアは病気の予測用で、優れた老化の予測には向きません。 「リスクが低い」と「守る力がある」は別物です。
  • ただし142対89の横断研究で、定義も記憶課題に依存します。何が守っているのかは、これから探る段階です。

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参考文献(主要なものを抜粋)

1. シカゴ大学 HAARC / TGen ら. (スーパーエイジャーの遺伝的リスクプロファイルに関する研究). Alzheimer's Research & Therapy, 2026. doi:10.1186/s13195-026-02124-2.(記憶力を保つスーパーエイジャー142人と平均的な89人を比較し、APOE型・ポリジェニックリスクスコア・稀な防御変異のいずれでも両群に有意差がなかったと報告。優れた認知老化は既知のリスク遺伝子では説明できず、抵抗力〔レジリエンス〕のしくみを今後探る必要があるとした。)

2. 大学解説. University of Chicago Medicine(研究の紹介記事), 2026.(スーパーエイジングは単純に「アルツハイマー病の反対」ではない、という位置づけを解説。)

3. 背景:ポリジェニックリスクスコアは、多数の遺伝子多型の効果を合算して疾患のなりやすさを推定する指標で、集団の傾向を示すのに用いられる(疫学の一般的知見)。個人の例外的な経過の予測には限界がある。


編集方針・免責事項

  • 本記事は公開された学術論文および大学の解説の整理であり、診断・治療・特定の検査の推奨・否定を目的とするものではありません。
  • 紹介した研究は横断的な観察研究で、規模(142対89)や定義(記憶課題への依存)に限界があります。結果は示唆であり、確定的な結論ではありません。
  • 遺伝子検査の結果は、病気の発症や優れた老化を確定・予測するものではありません。リスクスコアは集団の傾向を示す参考情報です。
  • 認知機能や認知症に関する不安がある場合は、医療機関にご相談ください。本記事は診断・治療の助言ではありません。
  • 情報は最終更新時点のものです。最新情報は原著をご確認ください。

この記事は WSN. 私たちは、死なない。 編集部により2026年8月に作成・公開されました。新しい情報が出れば随時更新します。

タグ
スーパーエイジャー遺伝子認知機能アルツハイマー疫学

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