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メラトニンは「安全なサプリ」なのか ─ 長期使用と心不全リスクの報告を、どこまで読むか【2026】

WSN. 私たちは、死なない。 編集部·公開: 2026年8月31日·最終更新: 2026年8月31日

最終更新: 2026年8月 / 監修: WSN. 私たちは、死なない。 編集部

メイ
メイ「メラトニンを長く飲むと心不全リスクが90%上がる」って見て、こわくなりました。もう飲むのやめたほうがいいですか?
トキ
トキ落ち着いて読みましょう。この報告には注意点が2つあります。ひとつは、これは「相関」であって「因果」ではないことです。もうひとつは、まだ査読を経ていない学会発表だということです。研究者自身が「因果は証明していない」とはっきり言っています。「安全神話」を疑うのは正しい。でも「即やめる」も、この段階では行き過ぎです。
デバ
デバふぉっふぉ。しかも、この話は2025年11月の学会発表が、2026年8月にまた報じられて広がったものじゃ。新しい確定情報が出たわけではないのじゃ。数字の大きさに驚く前に、"どういう研究か"を見るのじゃぞ。
メラトニンは安全なサプリなのか。不眠症の成人約13万828人の電子カルテを解析した観察研究で、メラトニンを1年以上使い続けた約6万5414人は、使っていない群より5年間の心不全の発症リスクが約90%高かったと報告された。心不全での入院は19.0%対6.6%、全死因死亡は7.8%対4.3%と、いずれも使用群で高かった。ただしこれは相関であって因果ではなく、研究者自身が因果は証明していないと明言している。交絡として、不眠の重症度、うつや不安の併存、そして対照群にも市販のメラトニンを使っている人がまぎれる曝露分類の誤りが挙げられる。用量のデータもない。さらにこれは査読を経ていない学会発表AHA2025で、2025年11月の発表が2026年8月に再び報じられて広がったもの。自然だから安全という前提は問い直す価値があるが、怖がって即やめるでも無視するでもなく、主治医に相談し睡眠の土台を整えるのが妥当。
図:この記事の全体像 青=何の報告か/緑=わかったこと(長期使用と心不全リスクの相関)/赤=線引き(相関≠因果・未査読の学会発表・再掲)。

1. まず整理 ─ 何の報告か

まず内容を確認します。米国心臓協会(AHA)の学会(Scientific Sessions 2025、2025年11月)で、メラトニンの長期使用と心臓の健康に関する解析が発表されました1。

内容はこうです。不眠症と診断された約13万828人の電子カルテ(TriNetXという医療データベース)を使い、メラトニンを1年以上使い続けた約6万5414人と、使っていない人を、5年間にわたって比べました。対象の平均年齢は56歳、61%が女性です1。

ここで、最初に太字で押さえたい前提が2つあります。ひとつは、これが**「観察研究」だということです。誰かにメラトニンを飲ませて比べた試験ではなく、すでにあるカルテを後から眺めた研究です。もうひとつは、これが査読(第三者の専門家によるチェック)を経ていない学会発表**だということです。学会発表は速報であり、論文として確定した情報ではありません1。

2. わかったこと ─ 報告された「相関」の中身

そのうえで、報告された数字は目を引くものでした。メラトニンを1年以上使い続けた群は、使っていない群より、5年間の心不全の発症リスクが約90%高かったとされます。加えて、心不全での入院は19.0%対6.6%(使用群のほうが約3倍多い)、全死因の死亡は7.8%対4.3%(同じく高い)という差も示されました1。

見出しになるのは、たいてい「90%」という大きな数字です。しかし、ここまで読んできた前提を思い出してください。これは**「メラトニンを長く飲んでいた人たちの間で、心不全が多く記録されていた」という関連(相関)であって、「メラトニンが心不全を起こした」という証明ではありません**1。

メイ
メイでも、これだけ差があると、やっぱりメラトニンが悪いんじゃないですか?
トキ
トキそこが今日いちばん大事なところです。考えてみてください。1年以上メラトニンを飲み続ける人は、それだけ不眠が重いかもしれません。重い不眠は、うつや不安、生活習慣の乱れとも結びつきます。そしてこれらは、それ自体が心臓に悪い。つまり「メラトニンのせい」ではなく「もともと不眠が重かったせい」で心不全が多く見えた可能性が、消せていないんです。これを"交絡"と言います。

3. ここが核心 ─ 相関≠因果、しかも未査読

前向きにも後ろ向きにも走りすぎないために、線引きをはっきりさせます。この報告には、少なくとも3つの重い留保があります。

ひとつめは、交絡(原因と結果の取り違え)です。研究者自身が挙げているように、この解析には不眠の重症度、うつ・不安などの併存症、メラトニンの用量といった重要な情報がありません。「メラトニンを長く飲む人」と「飲まない人」は、そもそも健康状態が違う可能性が高く、その差が結果を生んだのかもしれません1。

ふたつめは、曝露の分類の誤りです。メラトニンは、国によっては医師の処方箋なしに市販で買えます。すると、「使っていない」とされた対照群のなかにも、実は市販のメラトニンを飲んでいた人が混じっているかもしれません。これは比較そのものを揺るがします1。

みっつめは、そもそも査読を経ていないことです。これは論文ではなく、学会で示された予備的な発表であり、AHA自身も「初期の、査読前のデータで、因果は示せない」と明記しています。しかも、この発表は2025年11月のもので、2026年8月に大手メディアが再び取り上げて広がった、という経緯があります。新しい確定的な事実が出たわけではありません1。なお、サプリ業界の団体(CRN)は反論の声明を出していますが、これは業界側の立場である点も、あわせて頭に置くのが公平です2。

4. 補助線 ─ 査読済みの知見で「言えること」

この報告が心もとないのは分かりました。では、査読を経た研究では、メラトニンについて何が言えるのでしょうか。今回の一報の外側から、3本の補助線を引いておきます。ここがそろうと、見出しの数字に振り回されにくくなります。

まず、効きめと使いどころです。実は、睡眠医学の専門家組織(米国睡眠医学会、AASM)の診療ガイドラインは、慢性不眠症の大人に対して、メラトニンを寝つき・睡眠維持の治療として「使わないこと」を弱く推奨しています。効果を裏づける質の高い証拠が足りない、というのがその理由です。慢性不眠の第一選択は、薬ではなく**認知行動療法(CBT-I)**とされています4。そもそもメラトニンは「睡眠薬」というより「体内時計を合わせるホルモン」で、時差ぼけや睡眠相後退(極端な夜型)、加齢で分泌が減った高齢者などの、体内時計のずれにこそ向く、という位置づけです。「毎晩の眠りをよくする万能サプリ」という使い方自体、証拠のうえでは後押しされていません。

つぎに、用量と品質の問題です。市販のメラトニンには、体が本来出す量よりずっと多い用量の製品が少なくありません。さらに、市販品を分析した研究では、31製品の7割超が表示量の±10%に収まらず、実際の含有量は表示より83%少ないものから478%多いものまでばらつき、同じ製品でもロット(製造単位)ごとに最大465%も違いました。一部からは、別の物質であるセロトニンまで検出されています5。つまり、「自分が何を・どれだけ飲んでいるか」が、そもそも曖昧なのです。

そして、いちばん今回の話に効く補助線が、心血管の実データです。人でメラトニンを実際に飲ませたランダム化比較試験(因果を調べられる、質の高いデザイン)を集めたメタ解析では、メラトニンはむしろ血圧をやや下げる方向で(とくに徐放性で収縮期・拡張期とも低下)、重篤な有害事象の報告はなく、副作用は頭痛や軽い胃腸症状が中心でした。血糖やLDLコレステロール、炎症の指標が改善したという報告もあります6。つまり、質の高い介入研究の全体像は、「メラトニンが心臓に悪い」という方向を支えていません。これは、今回の学会発表の「心不全と関連」という結果が、因果ではなく交絡(もともと不眠が重い人が飲んでいた)で説明しやすいことの、強い裏づけになります。

5. わたしたちにとって何を意味するか

では、どう受け止めればいいのでしょうか。まず、「メラトニンは自然由来だから、いくら長く飲んでも安全」という思い込みを、一度立ち止まって疑う——これは正しい姿勢です。サプリだから無条件に安心、ということはありません。長期の安全性は、実はよく分かっていない領域が多いのです1。

いっぽうで、この報告を理由に、いま飲んでいる人が自己判断で急にやめるのは、行き過ぎです。相関どまりの、査読前の一報にすぎません。それに、不眠を放置すること自体にも健康上の害があります。大切なのは、怖い見出しに飛びついて極端に動くのではなく、主治医に相談することです。「なぜ飲んでいるのか」「どのくらいの期間・量か」「ほかに睡眠を整える方法はないか」を、専門家と一緒に見直すのが、いちばん確かです。

そして、睡眠そのものの土台は、この一報があってもなくても変わりません。規則正しい就寝・起床、寝る前の光やカフェインの管理、日中の運動といった基本は、確からしい効果が分かっています。派手な「危険」という見出しにも、「自然だから安全」という宣伝にも寄りかからず、確かな土台を続けながら、査読を経た続報が出るのを落ち着いて待つ——それが、この報告との誠実な向き合い方です。

※この記事は睡眠や不安に関する話題を含みます。眠れないつらさや気分の落ち込みが続くときは、一人で抱え込まず、医療機関や身近な人に相談してください。

まとめ ─ 30秒でおさらい

  • 不眠症の成人約13万人の電子カルテを解析した観察研究で、メラトニンを1年以上使い続けた群は、5年間の心不全リスクが約90%高かったと報告されました1。
  • 心不全での入院(19.0%対6.6%)や死亡(7.8%対4.3%)の割合も、使用群で高いという差が示されました1。
  • ただしこれは相関であって因果ではありません。研究者自身が「因果は証明していない」と明言しています1。
  • 交絡(不眠の重症度・うつ/不安・用量不明・対照群への市販メラトニンの混入)が消せておらず、しかも査読前の学会発表(2025年11月発表の再掲)です12。
  • いっぽう、査読済みの知見はむしろ逆を示唆します。RCTのメタ解析ではメラトニンは血圧をやや下げ、重篤な有害事象は報告されていません6。米国睡眠医学会は慢性不眠へのメラトニン使用を推奨しておらず(第一選択はCBT-I)4、市販品は表示と実含有量が−83%〜+478%も食い違うことも示されています5。
  • 「自然だから安全」は疑う価値がありますが、自己判断で急にやめるのも行き過ぎです。主治医に相談し、睡眠の土台を整えつつ、査読された続報を待つのが妥当です1。

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参考文献(主要なものを抜粋)

1. American Heart Association(AHA Scientific Sessions 2025 で発表された予備的研究). Long-term use of melatonin supplements to support sleep may have negative health effects. 2025年11月発表(2026年8月に再報道). AHA Newsroom: https://newsroom.heart.org/news/long-term-use-of-melatonin-supplements-to-support-sleep-may-have-negative-health-effects .(不眠症と診断された約13万828人〔平均56歳、女性61%〕の電子カルテ〔TriNetX Global Research Network〕を用いた後ろ向き観察研究です。メラトニンを1年以上使用した約6万5414人と非使用者を5年間比較し、使用群で心不全の新規発症リスクが約90%高く、心不全による入院〔19.0%対6.6%〕・全死因死亡〔7.8%対4.3%〕も高いと報告しています。査読前の学会発表であり、因果関係は示していません。用量・不眠の重症度・精神疾患の併存のデータを欠き、対照群における市販メラトニン使用の未把握など、曝露分類の誤りや交絡が限界として挙げられている。2025年11月の発表が2026年8月に再び広く報道された。)

2. Council for Responsible Nutrition(CRN). CRN Responds to Melatonin Study Presented at AHA Scientific Sessions 2025. 2025年.(サプリメント業界団体による反応声明です。研究が観察的で因果を示さないこと等を指摘しています。業界側の立場からの発信である点に留意が必要です。)

3. 背景:観察研究は曝露と結果の関連を示すが、因果の証明はできない。とくに「治療を受けている人ほど、もともと重症・不健康である」ことによる交絡(適応による交絡、confounding by indication)は、薬・サプリの観察研究で結果を歪める代表的要因である。学会発表は査読を経ていない予備的な情報であり、確定した結論として扱うべきではない(疫学・臨床研究の一般的知見)。

4. Sateia MJ, Buysse DJ, Krystal AD, Neubauer DN, Heald JL. Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med, 2017;13(2):307-349. PMID: 27998379.(米国睡眠医学会の診療ガイドラインです。慢性不眠症の成人に対し、メラトニンを睡眠導入・睡眠維持のいずれの治療としても使わないことを弱く推奨しています〔有効性を示す質の高い証拠の不足による条件付き推奨〕。慢性不眠の第一選択は認知行動療法〔CBT-I〕とされます。メラトニンは体内時計の調整に関わり、時差・概日リズムの問題ではより支持的なエビデンスがあります。)

5. Erland LAE, Saxena PK. Melatonin Natural Health Products and Supplements: Presence of Serotonin and Significant Variability of Melatonin Content. J Clin Sleep Med, 2017;13(2):275-281. DOI: 10.5664/jcsm.6462.(市販メラトニン製品31点〔16ブランド〕を分析しました。7割超が表示量の±10%に収まらず、実含有量は表示比−83%〜+478%、同一製品のロット間差は最大465%に達しました。一部からはセロトニンも検出しています。市販サプリの表示と実際の含有量が大きく食い違いうることを示す研究です。)

6. 背景(心血管の介入研究):メラトニン補充のランダム化比較試験を統合した複数のメタ解析では、メラトニンは血圧をやや低下させ(とくに徐放性製剤で収縮期・拡張期とも有意に低下)、重篤な有害事象の報告はなく、副作用は主に頭痛・軽度の消化器症状にとどまるとされる。空腹時血糖・LDLコレステロール・炎症マーカーの改善を報告するものもある。すなわち質の高い介入研究の総体は「メラトニンが心血管に有害」という方向を支持していない(複数のRCTメタ解析にもとづく一般的知見です。例:Journal of Clinical Medicine ほかの系統的レビュー・メタ解析)。


編集方針・免責事項

  • 本記事は学会で発表された査読前の観察研究の整理であり、特定のサプリメント・医薬品の使用や中止を推奨するものではありません。本報告は相関を示したもので、メラトニンが心不全等を引き起こすことを示したものではありません。
  • 本記事は、メラトニンの使用を始める・やめる・変更することを勧めるものではありません。睡眠や不眠、サプリメントの使用に関する判断は、必ず医師などの専門家にご相談ください。自己判断での急な中止は避けてください。本記事は診断・治療の助言ではありません。
  • 眠れないつらさや気分の落ち込みが続く場合は、一人で抱え込まず、医療機関や信頼できる人にご相談ください。
  • 情報は最終更新時点のものです。査読を経た続報が出た場合は、あらためて確認してください。

この記事は WSN. 私たちは、死なない。 編集部により2026年8月に作成・公開されました。新しい情報が出れば随時更新します。

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